東京大学の大学院を休学し、スタンフォード大学の航空宇宙工学科修士課程でロボティクスの研究をしている西村さんに、スカイプでインタビューをさせていただきました。
西村さんが航空宇宙工学に興味を持った高校時代から、大学進学後に留学を志すようになった経緯、その中での迷い・決意・変遷を伺いました。
迷いながらも自分の好奇心を大事に突き進んできた西村さんのお話は、「やりたいことがみつからない」という多くの学生の参考になるでしょう。

 

 

友人と天体観測(右端が西村さん)

友人と天体観測(右端が西村さん)

 

ロボットづくりがしたくて麻布に進学


- 西村さんは、東京都の麻布高校出身ですよね。どんな中高生時代を過ごしていましたか?

中学1年生から高校2年生まで、「物理部無線班」というちょっと変わった部活に所属していました。
ロボット作りとか電子工作を主にやっている部活で、そんなにものづくりが得意な方ではなかったんですけど、5年間それに打ち込んでいましたね。


- なにかきっかけはあったんですか?

実は、僕が中学受験で麻布を受験したのは、その部活に入るためだったんです(笑)
小学校の時に麻布の文化祭を見に行って「物理部無線班」に出会いました。そこで、自分でゲームを作ったり、ロボットを作ったりしている先輩を見て、小学生なりに「これかっこいいな」って思って。その部活に入るために、麻布を受けることにして、中学受験を頑張っていました。

実際に入ってみたら、トランプで負けたら筋トレをさせられるなど、予想以上にぶっ飛んだ部活でした。
インドアなんだけど、気質だけ体育会みたいな感じで。上下関係もすごく厳しくて。でもその雰囲気が好きで、高校2年生まではそれに打ち込んでいましたね。
 



小説がきっかけで航空宇宙に興味もち、進学先も東大に決めた
 

- 東大に進学されましたよね、受験時代はどんなことを考えていましたか?

結局、受験は東大と早稲田しか受けませんでしたね。受験勉強始めた3,4ヶ月は、全然モチベーションが上がらなくて。
そこで「これをしにいくんだ」っていう目的意識を持って大学に行こうってことで、
『航空宇宙工学科のある大学に進学して、研究室に入るんだ』
って決めて、頑張ってました。

 

- ロケットとか飛行機とかの研究をする航空宇宙工学科ですよね。随分ピンポイントですが、そんなに思い込めるきっかけがあったんですか?

そうですね、結構しょうもない理由なんですけど。僕、映画とか小説に触発されやすくて。
高1くらいの時に、横山秀夫という作家の「クライマーズ・ハイ」っていう御巣鷹山の飛行機事故をベースに書いた映画化もされた小説にハマってしまったんですよ。

ちょうど高校の自主選択の20~30ページの論文を書く授業があったので、「飛行機事故」をテーマに論文を書いたんですね。そのなかで、飛行機のことをいろいろ調べるうちに、それがすごく面白くなってしまって。
いろいろ調べていたら、東大に「落ちない飛行機を研究する」っていうラボがあって。ドンピシャですよね。
完全にそれだけで「航空宇宙工学科のある大学に進学しよう」って決めました。

 

- 教授の脱線が海外に目を向けさせた 東大に入ったときから、留学を考えていましたか?

学部3年の秋までは漠然と海外に興味があったというだけでしたね。
1年間の交換留学くらいだったらいいかな。という程度でした。

 

- 学部3年の秋に、本格的に留学を考えたきっかけがあったんですね。 

そうですね、大学2年生の秋くらいから念願の航空宇宙工学科に進んで本格的に航空宇宙の勉強を始めたんですけど、最初の1年は基礎の基礎ばっかりで正直あんまりおもしろくなくて。
「思っていた航空宇宙工学科とは違うな」って思ってましたね。最初は基礎的なことばかりで。
すごく重要なんですけど、僕はそこにときめかなかった。
勉強が進んで、応用的なことを学ぶようになっても、3年生の秋までは「この学科にきて、本当に勉強したいことってなんだろう」って思い悩んでましたね。
 

- どのようにその悩みを乗り越えたんですか?

そうやって悩んでいる中で、ある教授が講義の中で、脱線を始めたんです。今でもよく覚えています。
「最近の欧米の流行りは、レジリエンスエンジニアリングだ」って言ったんです。

レジリエンス工学っていうのは、
「一個一個のサブシステム、コンポーネントの性能を考えるのを考えるのも大事だけれども、それらが組み合わさってシステムになった時に、いかに全体を最適化して、複雑性を加味しつつ安全にシステムを扱えるか」
ということにフォーカスした分野です。

なんとなく自分が興味あったところに、初めて名前がついたっていう感覚がありましたね。
「結構新しい学問分野だから、新しい本がある」と聞いて。
その日にAmazonでその本を買って、読んでみて。すごく面白いと。

「これはどんな人が書いているんだろう」と調べたら、MITの航空宇宙の人がその本を書いていて、その時から、海外の航空宇宙のホームページとか見るようになったんです。
そうしたら、東大院でやってないような研究がわんさかあって。それが本格的に海外留学を考えるきっかけでしたね。
 

 

秋晴れの日のMITキャンパス

秋晴れの日のMITキャンパス


 

海外挑戦の決め手となったのは、先輩との出会い。


- 自分のやりたいことは海外にあるんじゃないか!って思ったんですね。留学を決心するまでは時間がかかりましたか?

留学する決心は結構早くつきました。その年の12月くらいに、米国大学院学生会というイベントで現役留学生の方と出会ったことが大きかったです。
その人たちの「自分のやっていることに本当に自信を持って、本当に打ち込んでいる感」に、「あ、こういうのいいな」って思ったんです。

そういう道があるなら、やってみようと。
そこにいたほうがとても大変だけれど、それに見合うような人生を送っているように見えたんですね。
大学側が仕掛けてくるような「大学のすすめ、交換留学」はそんなに響かなかったけど、その時は、自発的に自分で聞きに行こうと思って行ったので、すごく面白くて。

でも、「いつから留学すべきか。」はけっこう悩みました。大学院の途中で留学するのがいいのか、大学院を卒業してからのほうがいいのかとか。
その時は、大学院の途中で留学する場合の締切が迫っていたので、「受かってから迷えばいいかな」と思って、まず準備を進めましたね。

 

- TOEFLの勉強とか色々大変だったと思うんですが、どうでしたか?

まず、情報収集が大変でした。
いつまでに、何をしなければいけないのか。奨学金を調べたり、締め切りもシビアなので、8−10月くらいに民間奨学金の締め切りが集まっているんですけど、それに間に合うためには、7月の時点でTOEFLの点数が100点超えていないといけないとか、結構スケジュール管理が大変でしたね。

しかもその時、具体的にどの研究室に興味があるっていうことが明確でなかったので、まずどんな研究室がどんな大学にあって、どんな研究をやっていて、どこが自分と合いそうかって全部調べて、興味のある先生にメールを送るという。メールして帰ってこない人が多いですけど、2人の先生から返ってきて。

アメリカに行く機会があったので、スタンフォードとMITのその2名の先生に直接研究室訪問しましたね。

 

- すごい行動力ですね!アメリカに行く機会はどうやって手に入れたんですか?

大学3年生の時から、小学生に科学の授業をしに行くという授業を受けていて。
UC Berkley(以下UCB)にも似たような事を100人規模でやっている学生団体があって,そこの人たちと交流する機会があったんです。偶然ですけどね笑
お互いどんな授業をしていて、どんんなプロジェクト展開をしているのかを共有するような会でした。ついでにボストンも寄って帰りました。

 

- 奨学金などの手続きなども大変そうですよね?

ハードスケジュールではあったんですけど、そんなにきついとは思いませんでしたね。
助けてくれる人がたくさんいたので。
学科の性質上、海外に目を向けている人がすごく多かったです。
僕の当時の研究室の同級生も一緒に出願もしてましたし、他の研究室の人もやってましたね。
そういう他の人とも連携を採って、どこの奨学金に出したとか、SOP(Statement of Purpose)とかもレビューしあったりとか、学生同士でDropBox作ってやってましたね。
僕の場合は身近に準備している人がいたので、すごく心の支えになりましたし、実務的にも色々助かりましたね。
良い環境にいました。
あとは、さっきも話した米国大学院学生会に何回か行って、お金のことや心構えについてや、どんな準備をすればいいかっていうのを聞きました。
準備でスケジュール立てたり、奨学金の申請書を書いたりするのが嫌いじゃなかったので。
淡々とやるだけだったのであまり深く考えずに、まあもし落ちたとしても何かの勉強にはなるかな、と思って気楽にやってました。
きつかったことを一つあげるとすれば、今もらっている奨学金の申請書を800枚提出する準備はきつかったですかね。
8つの奨学金に応募したんですけど、いろいろあって1つあたり100枚くらいになってしまって。
100円ローソンのコピー機を1時間位陣取って。あの時は心折が折れそうになりましたね。
 

- 結果、合格されましたよね。留学に行くタイミングなど迷っていたと思うのですが、合格してからは悩みませんでしたか?

受かって合格通知書もらったらそれはもう迷わないですよね笑
「これは行くしか無いだろう」ってなりました。
でも奨学金がどこからももらえていなかったら、迷っていたと思います。学費がばかにならないので。

 

寮の部屋

寮の部屋

 

海外に来てから、やりたいことはどんどん変わってきている。

 

- 留学に来てまずはじめに感じた日本との違いはなんですか?

授業の重みが日本と全然違うので、こっちで大事なのは「いかにうまく手をぬくか」っていうことですね。
教科書も、800ページあって、最初は1字1句見逃さ無いという感じだけど、だんだんどこが大事で、どこが大事じゃないかがわかってくる。
それができないと、受けている授業についていくことができないです。


- 留学当初、英語は苦労しましたか?

めっちゃ苦労しましたね。今でもそんなに慣れているわけではないんんですけど。
単語が難しくて・・・。ボキャブラリーを増やしておくことは結構大事なことですね。
人の話を聞いててわからない時は、自分の知らない人の話で盛り上がっているか、単語が難しくてわからないかの二つかなと。

事前に、ある程度単語力はつけておいてたほうが良いと思います。
特に、学問の分野で結構必要になりますね。自分の専門外の文書を呼んだりすると、英語のweb記事とか。専門外の文系の人が書いた記事とか。
辞書を引かないと何を言っているかわからない時があります。
日本人もオフィシャルな文章を書くときとか、難しい言葉を使って書くじゃないですか。

話す時って、単語の数はそんなにいらないのでなんとかなりますけど、
オフィシャルの場で、何回も同じ単語を繰り返すとばかみたいなので、発信する側も受ける側も、ボキャブラリがあったほうが良いなってこっちに来て改めて思いますね。


- 英語の克服で取り組んでいることはありますか?

英語に関して言えば、大学の英語メンター制度っていうのにお世話になっています。
大学がアメリカ人の学生を雇って、留学生とマッチングして、1体1で週に1時間、話す機会を提供しているんです。
僕は、せっかくアメリカにいるからには「朝起きて、授業にいって、宿題やって、寝て。」の繰り返しだけで終わるのはもったいない。ということで、

1時間のセッションは授業に全然関係ない「youtubeに上がっているアメリカのコメディアンの政治風刺の動画」とか、「アメリカで昔から普通に生活している人には普通に分かるけれど、外国人には分からないような、ちょっとコンテキスト(文脈)が高いコンテンツ」を勉強させてもらっています。自分でこういうのをやりたいですっていうのをだしてやっていますね。
 

- 来る前と自分自身の中で変化はありますか?

自分の興味のあった、「レジリエンスエンジニアリング」について足を突っ込んでみてわかったんですけど、結構実学的なんですよね。
といのは、飛行機を現場で設計したりという経験のある人にとっては、バイブルになりうる学問だけど、まだ仕事をしたこともない人が机上の空論でやっても成果が出るものなのかは疑問でした。

そこで僕は、研究は実学よりも基礎に根ざした機械学習とかのコンピュータサイエンス系の研究をしようと切り替えて、そういう研究室に入ることにしたんです。

MIT総合図書館

MIT総合図書館


- 実際に深く学んでみて分かった気づきだったんですね。それからはどんなことをしていますか?

今年の春から研究で単位をもらえるプロジェクトに入っています。
興味ある研究室の教授と交渉して入りました。
僕と同じタイミングでボストン大学から移ってきた教授がいて、その先生にコンタクトして交渉しました。

あとは、今は飛行機をつくっている会社でインターンをしています。
朝8時に出勤して、夜の7時位に帰ってくる生活ですね。
スタンフォードから一緒に来ているルームメイトと一緒です。
アメリカ人は結構いるんですけど、外国人には門戸が狭くて、僕も今の仕事はアメリカ人の同じ学科の友達で、学部生時代にその企業でインターンをしていた学生のコネを使って入り込みました。

先学期終わって、6月13日くらいからすぐにこっちに来て、9月の頭までいますね。
13週間。結構あっという間です。

 

- 今後どんな道に進みますか?

僕は航空宇宙の畑で着ているけど、もう少し極めたいのは、コンピュータサイエンスの方で、特にプランニングとかマシーンラーニングとか、いわゆるAIという分野に興味があって、今はその専門知識がついたと言えるレベルではないので、博士課程でその分野でエキスパートになってからその分野に入るか。というかんじですね。気持ちとしては、PhDに固まりつつありますね。

 

 

 

高校生にメッセージ

 

- 最後に、日本の高校生にメッセージをいただけますか。

難しいですね・・・。
「夢を持て」みたいなことを言われるじゃないですか。色んな人から。
でも具体的にどうすれば夢を持てるかなんてだれも教えてくれない。難しい問題ですよね。

既に夢を持っている人にとってはアタリマエでカッコいいことだけど、高校生の段階で、一生続くような夢をモテる人ってそんなにいないと思うんですよね。
僕は、夢を持つというよりは、ウソでもいいから自分で目標をとりあえず無理矢理でも決めて、訳もわからなくても、とりあえずやってみるっていうのがいいと思っています。

夢というよりも目標を決めて、まずはそれに向かってやってみる。多少苦しくても努力してみる。
そうしているうちに、偶然人との出会いとかがあって、偶然自分のやりたいことがちょっと見えてくる。
大体の人がそういう生き方をしているんじゃないかと思うんです。

受験もそうじゃないですか。「でなんでこんなこと…青チャート何周もやんなきゃ」って思いながらも、今やってることのさきにあることをいかにイメージできるかが大事かなと思います。
だから色んな人に会って、話を聞いて、自分には関係ないやって思わないことですね。
僕も大学1年生のときに留学するなんて夢にも思ってなかったので笑

とりあえず英語勉強しておいてよかったなって感じですね笑 始める前から全部わかってる人なんていないと思うので、小さなきっかけを大事に目標を立てて、「とりあえずここに行くつもりで」みたいな。
後からいくらでも変えられるので。

受験勉強大変だと思うんですけど、少しでもその先をイメージして、頑張ってほしいなって思います。僕も、頑張ります。


 

~編集後記~
 

麻布高校から東京大学航空宇宙学科を経て、スタンフォード大学へ留学し、アメリカの飛行機会社でインターンをしているという西村さん。
夢に向かって一直線に見える西村さんにも、思い描いていたものと違って悩んだ時期がたくさんありながらも、小さなきっかけを創り出して自分の好奇心でワクワクを膨らませて、目標にして走っていく。
そんな突き進んでいる西村さんの姿が目に浮かぶようでとても素敵でした。

現在も幾つか目の前に選択肢があって、今後を考え中のようでしたが、それでも自分の好奇心に素直に、目標を決めて、突き進んでいくのでしょう。
インターン中の合間に時間を取っていただいた西村さん、素敵なお話を聞けて本当にありがとうございました!

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